税理士になるには、税理士試験で5科目合格する以外にいくつかの方法があります。
前回に引き続き、税理士になるための方法について、札幌市東区で税理士(所属税理士)をしている筆者が受験生時代の経験を交えて、解説します。
税理士になる方法の復習
前回は、税理士になるには大きく分けで次の3つの方法があって、なかでも次の2つが現実的だということを解説しました。
そして、「1の税理士試験で5科目合格する」ことについての概要をご紹介しました。
前回の記事を読んでいない方は、先にご一読いただければと思います。
2021.04.04
税理士になる方法 前編
税理士になるには、税理士試験で5科目合格する以外にいくつかの方法があります。 今回は、税理士になるための方法について、札幌市東区で税理士(...
税理士試験で数科目合格+数科目の免除
税理士試験では、一定の条件を満たすことによって、試験科目が免除される制度があります。
試験科目の免除を受けるには、次の3つの方法があります。
まず、2について考えてみます。
税理士になるために、大学教授になるというのは考えられませんね。
そもそも、大学の教授になることが難しいです。
現在、大学の教授である方が、この免除制度を利用して税理士になることができる制度であって、税理士になるために大学の教授を目指すというのは、現実的ではありません。
また、博士の学位で免除を受けることについても同様に現実的ではありませんね。
次に、3の方法について考えてみます。
例えば、国税職員は、23年以上勤務し研修を受ければ、税理士試験の全科目が免除されます。
たしかに、その点だけを見れば魅力的かもしれません。
しかし、公務員になるのにも試験がありますし、試験を受けるには年齢制限があります。
現在既に国税職員である場合を除いて、税理士になるために国税職員になろうというのはちょっと考えられません。
ということで、「1大学院で修士論文を執筆して認定を受ける」ということが、試験科目免除を受けるために最も現実的な方法となります。
大学院で試験科目を免除
ここからは、大学院で修士論文を執筆して免除の認定を受ける方法について、解説します。
どの科目が免除されるのか?
大学院で修士論文を執筆し、その研究内容について、国税庁の中に組織される国税審議会の認定を受けることで、税理士試験の科目免除を受けることができます。
何科目免除されるかは、次のように決まっています。
- 税法に属する科目に関する研究により認定を受ける場合 → 税法科目・2科目
- 会計学に関する研究により認定を受ける場合 → 会計科目・1科目
具体的にどの科目が免除されるのかは、決まっていません。
というのは、認定を受けるには、既に科目合格をしている必要があり、その合格している科目以外の科目が免除されるということになっているからです。
なお、2つの大学院で税法と会計学についてそれぞれ修士論文を執筆して認定を受ければ、税法科目2科目と会計科目1科目の免除を受けることができます。
ただし、お金も時間もかかりますから、2つの大学院に行くのはオススメしません。
税法科目の免除を受けよう
税法の修士論文について認定を受けることによって、税法科目が2科目免除されます。
この場合、税理士試験では、会計科目2科目と税法科目1科目に合格すればよいことになります。
他方、会計学の修士論文について認定を受けるのであれば、会計科目が1科目免除されます。
この場合、税理士試験では、会計科目1科目と税法科目3科目に合格すればよいことになります。
税法の修士論文について認定を受ける場合のほうが、免除される科目数が多いです。
そして、税法科目に合格するのは、会計科目に合格するのに比べて労力を要します。
合格率は会計科目の方が高いですし、暗記しなければならない量も少ないです。
加えて、会計科目から始める受験生が多いので、税法の受験生に比べて相対的なレベルが低いと思われます。
会計科目については、税理士試験で科目合格をねらいしましょう。
試験科目の免除にデメリットはあるのか
近年においては、積極的に免除制度を利用して、1年でも早く資格をとるという作戦をとっている方が多くなってきていると感じられます。
しかし、一昔前は、免除は良くないという認識の受験生が多くいました。
また、税理士事務所の職員採用においても、科目免除を受けた者は不利になるということもあったようです。
こういったことがデメリットと言われればそうなのかもしれません。
たしかに、免除という言葉から、試験を免れた(逃げた)と捉える方もいます。
しかし、改正によって平成14年から、免除を受けるための修士論文の認定は以前のものと比べて相当厳格になっています。
また、大学院での免除をネガティブに捉える方は、自分で論文を執筆したことがないでしょうから、修士論文を執筆することの有用性や労力がわからないのだと思います。
私は、税法を大学院で学ぶことは大変有益で、むしろ、メリットしかないと考えています。
税理士試験のデメリット
誤解をおそれずに言えば、税理士試験のほうが将来的に役に立たない要素が多いのではないでしょうか。
試験は競争ですから、どうしても丸暗記や速記、電卓を打つ速さなどが必要になります。
特に税理士試験は問題のボリュームが多く、制限時間内に解答するために反射的に解答することが要求されるという側面があります。
そして、こういう面について批判されることが多くなったからか、近年では何が問われているかをじっくりと考えなければ解けない問題が増えてきているようです。
そうすると、内容について理解の深度が求められ、そのうえ、考える時間が必要になりますから、今まで以上に丸暗記や速記の能力が必要になってくるのです。
実務では、通常の場合、いつでも条文を調べられる環境がありますし、複雑な計算はパソコンによって処理することができます。
そのため、膨大な丸暗記、速記や電卓を打つスピードは、試験以外ではそれほど役に立たないのではないかと思うのです。
実務上全く必要がないとまでは言いませんが、税理士の実務能力を向上させるためというより、試験を突破するためだけの能力向上に何年も注力せざるを得ない状況は耐え難いものがあります。
私が最後の1科目に合格できなかったのは、このような疑問が日増しに大きくなり、次第に試験勉強がつまらなくなったからかもしれません。
あくまでも「試験は試験」とわりきってはいたものの、長期化するにつれて、気持ちがついていかなくなりました。
その反動かどうかはわかりませんが、大学院で学んだ税法解釈や判例研究は非常に興味深く、自分の修士論文のテーマ以外の事例についても、のめり込んで研究にあたることができました。
税理士の資格を得ることはゴールでもありスタートでもある
ここまで、どういう方法で税理士になるのかという解説をしてきましたが、その方法自体が重要なのではなく、1年でも早く税理士になることが重要です。
よく、「税理士になるのがゴールではない」と言う方がいます。
これは、資格を取るのが目的ではなく、誰かの役に立つための手段として資格を取るのだということを意味するのだと思われます。
もっともな意見ですが、このように言ってしまうと、やや冷たい感じもします。
税理士試験の受験生にとっては、資格取得は、紛れもなく受験生としてのゴールなのです。
私が税理士試験の受験生に対して同様の趣旨を伝えるとすれば、
「税理士になることは間違いなくゴールです。」
「でも、それは予選のゴール。税理士になることで決勝戦のスタートラインに立てます。」
と述べるでしょう。
予選を突破しない限り、決勝に進めません。
そう考えると、1年でも早く税理士になることが重要だという意味がわかると思います。
私は、長期間の試験勉強と大学院での修士論文執筆による免除申請の両方を経験ました。
その経験から言えることは、税法科目の合格が長期化するようであれば、大学院も視野に入れて計画を立て直すことが重要だということです。
修士論文を執筆することは、想像以上に労力を要します。
でも、2年で2科目の税法科目に合格できるのかどうかを考えれば、試験よりも大学院のほうが確実に税理士に近づくと思います。
環境が許すのなら、最初から大学院に行くことを考えてもいいのではないでしょうか。
ただし、税法に1科目合格してからにしましょう。
税法科目の合格がないと、修士論文の認定を受けることができません。
税理士を目指す方が1日でも早く予選を突破し、決勝のスタートラインにつく日がくることを願っています。